大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(う)2142号 判決 1960年3月03日

控訴人 被告人 船橋敏次 外一名

弁護人 三浦寅之助

検察官 沢井勉

主文

原判決はいずれもこれを破棄する。

被告人船橋敏次、同溝口正を各罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二百五十円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し公職選挙法第二百五十二条第一項の選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用しない。

理由

職権をもつて調査するに、原審は被告人両名が共謀のうえ原判示十一回にわたる法定外文書の頒布行為を行つたものである旨判示し、その法令の適用において右各行為を公職選挙法第二百四十三条第三号、第百四十二条第一項第二号、刑法第六十条、罰金等臨時措置法第二条該当の併合罪であるとして刑法第四十五条前段第四十八条第二項を適用処断していることが明らかである。しかしながら、元来公職選挙法第百四十二条違反の所為は法定外文書を頒布した場合換言すれば多数人に配布する意思をもつて通常多数人に配布した場合に成立するのであり、その犯罪構成要件の性質上多数の配布行為を予想しその総体をもつて一罪を構成するものというべきであるから、たとえその間多数の配布行為が行われたとしても、その各個の配布行為が独立して各別に犯罪を構成するのではなく、これを包括して一個の頒布罪が成立するものと解すべきであり、もとよりこれを併合罪として処断すべきではない。今本件につきこれを見るに、被告人船橋は、かねて原判示鹿島守之助候補者のためポスター配布方を依頼されていたところ、昭和三十四年五月十日頃自己の勤務先において原判示文書約二十枚を入手したので被告人溝口と相談の上これを配布することとし、同月中旬頃被告人両名にて右文書の内約十六枚を原判示新井軍兵外五名方に配布し、同月二十日頃更に前同様の文書約二十枚を入手したので前回配布した残りの分と一緒にして被告人両名にて同月下旬頃原判示岩田信行外四名方に内約十九枚を配布したことが認められ、右各配布行為は単一の意思に基いてなされたものと認められるので、前説示に照しこれを包括して一個の公職選挙法第百四十二条違反罪に該当するものというべきであつて、原審がこれを併合罪として処断したのは法令の適用を誤つたものであり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 長谷川成二 判事 白河六郎 判事 関重夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例